牛島信氏、企業法律小説というカテゴリー
現役弁護士である牛島信氏の 2 作目となる牛島信著「株主代表訴訟」(幻冬舎文庫:2000年4月)を読了しました。話の展開の速さは流石といった感があるし、企業買収という観点から商法で定められた「監査役」の盲点!?を突いての内容は、個人的には興味深いところがあります。
前作、即ち牛島氏のデビュー作である牛島信著「株主総会」(幻冬舎文庫:1999年4月)でも「白馬の騎士」や「マネジメント・バイアウト」に関しての記述は本ブログの投稿記事「小説から学ぶ「白馬の騎士」と「マネジメント・バイアウト」」として公開したとおり、私個人的にとても興味深いし、今回の「株主代表訴訟」でも「アウト・オブ・パブリック」[1]や「TOB::Take-Over Bid」[2]といった企業買収や合併に関連した用語に関しての解説と、実際の世界に近いだろうと思われる買収戦略は、とても迫力があると思います。
牛島氏が主張する「企業法律小説」という新しい分野の小説だそうで、以前は余り日本人としては関心の少なかった企業買収、敵対的企業買収等が現実味をおびている昨今としては、全ての企業人にとっては興味を惹かれる、といったなまやさしい内容ではないような気がします。
ただ、1 作目、2 作目と共通して、話の後半での「事件」の終局がちょっと淡白なような気がします。「企業法律小説」ですから、あまり「事件」後の展開は必要ないのかもしれませんが、やはり買収劇が完了した後や「株主総会」終了後に関してのもっと泥臭い買収された側の企業に関しての記述等があっても面白いのではないかと思います。
私は、日本企業と外資系企業の合弁会社の設立を手がけた事がありますが、そうした合弁会社の設立でも文化の違いや宗教の違いから、双方にいろいろな策略があり、それはそれで面白く、企業法律という観点からは、そうした合弁企業の設立なんていう内容の小説もありかな、何て感じているのですが。
脚注:[1]
アウト・オブ・パブリック:上場している企業を非上場にしてしまうこと。
脚注:[2]
TOB::Take-Over Bid:株式市場を通しての株式公開買付のこと。